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2011年9月9日金曜日

成瀬巳喜男『妻よ薔薇のやうに』と向田邦子『胡桃の部屋』

@@@@やまねこ通信134@@@@

昨日、第19回茅野市男女共同参画講座の連絡ハガキと「前
回の報告」を作成し、せいたかさん、ならゆみさんにメール
で還流。幾つかの指摘を受けて手直し。最終稿を作った。

本日それを市の家庭教育センターにメール。そこからハガキ
が発送される。Eメール利用の方々にはやまねこが添付ファ
イル付メールを発信した。

『妻よ薔薇のやうに』は1935年の作品。30歳だった成瀬巳喜
男はこの年に5本の映画を作っている。初期の黄金時代。196
0年代の『めし』に始まる「女性路線」とは微妙に違うけれど、
『妻薔薇』(略称)は家族とは何かを問い直す切っ掛けを与
えてくれる物語である。
原作は劇作家、小説家の中野實『二人妻』。

連絡ハガキを再録しよう。

丸の内に勤める高給社員君子は、対等なボーイフレンド精二
との結婚間近。教養ある歌人の母悦子は生活の苦労をするこ
となく作歌に専心。父俊作は一獲千金の夢が捨てきれぬ鉱山
師で、信州に赴き帰らぬまま、同地の女性お雪に生まれた子
どもとの第二の家庭を営んでいた。東京には手紙なしの小額
為替を送るのみの10年。

結婚を控えた君子は母の身を案じ、このままではいけない、
と男を騙すわるい女の許から父を連れ帰ろうと決意し信州に
赴く。髪結いを営むお雪とその娘静子、父と長男堅一のつま
しい暮らしの4人家族に会って、君子は何を考えるだろう?

原作中野實『二人妻』。先ごろ放映されたNHKドラマ向田
邦子作『胡桃の部屋』とのシンクロニシティー、共時性に驚
嘆!
ジェンダー意識の基本が学習できる講座。「若者たちと男女
共同参画」のミニ講座もあります。ご参加ください。  
               
 記
・場所:諏訪東京理科大学4号館432教室  
・司会:奈良裕美子、報告:藤瀬恭子、会場:清藤多加子 
・主題:「悦子、君子、お雪、静子、俊作、堅一:誰の主体
にあなたは立てるだろう?」
雑費:100円をお願いいたします。
(会員制)(1月、3月、5月、7月、9月、11月、最終土曜日
開催)
主催:茅野市男女共同参画を進める会、代表・藤瀬恭子、
※お問合せ:茅野市家庭教育センター(0266-73-0888
(ハガキ再録以上)

妻の許を離れ、別家庭に暮す父親。結婚を控えた娘君子が、
一家の再構築という大仕事に決然と挑むという『妻薔薇』筋
書きが、向田邦子ドラマ『胡桃の部屋』と重なり合う。

向田邦子ドラマ『胡桃の部屋』はNHKドラマで先ごろ放映
されたのをご覧になった方も多いだろう。視聴率は平均約1
0%だったという。話題を呼んだ林真理子原作『下流の宴』
の次の「ドラマ10」シリーズであった。

ここで『胡桃の部屋』を振り返ってみよう。会社をリストラ
された父親が、自宅に帰らず失踪したことを切っ掛けに、一
家のすでに緩んでいたタガの外れが明るみに出て、一気に家
庭崩壊に向かう物語。

父、三田村忠(蟹江敬三)は、おでん屋を営む40歳の女性恩
田節子の古いアパートに転がり込み、看板持ちのアルバイト
で小さな収入を得るようになる。

父不在になった家庭では、母綾乃(竹下景子)が精神不安定
になってゆく。4人きょうだいの次女桃子(松下奈緒)が中心
的役割。勤務先の出版社の給料で何とか一家を支えるけなげ
な娘。責任感強く人に頼ることを知らない女性。他のきょう
だいには一家の経済的苦境を伝えない。いわば一家の「長男」
役として描かれている。

長女咲良は結婚して子供が二人。商社勤務の夫が出張がちで
夫婦の対話が不足。やがて夫の不倫が明るみに出て離婚に直
面。長男は大学生だがレストランで働いて授業には出ぬまま
ドロップアウト。三女陽子は喫茶店のアルバイトをするうち、
恋人が出来る。

次女桃子はきょうだいの抱える幾つもの苦難、トラブルの相
談相手をしながら、同時に同居している母の買い物中毒、過
食症にしっかり向き合うしっかり者。その一方で、父の部下
都築に相談するうち、妻子ある都築に対して愛をいだくよう
になる。

桃子は父の住むアパートに乗り込んできっちりと話を付けよ
うと決意する。その一方、父と母が街のラブホテルに同行す
る後を尾行したりもする。

桃子は要するに、両親の夫婦関係によって成立していた三田
村一家の綻びをつくろい、家族を再構築することに自分の情
熱を燃やす。それ以前、桃子には編集者として仕事に打ち込
む以外には、さしたる人生の目的はなかったのだ。桃子は父
の失踪のお陰で、さ迷いながらも、生き方にしっかり筋が通
るようになったといえるかもしれない。

最終的には、父・忠が節子のアパートで脳梗塞を起こし、病
院に運ばれる。節子の連絡で綾乃はじめ子どもたちは意識不
明から回復する見込の消えた忠を囲む。

不在から存在にはなったが、意識が中空になった夫・父を「
中空構造の中心」として、三田村一家は再構築の夢をそれぞ
れに抱く。家族神話の再構築。けれどそれがどれほど脆いも
のかを、一家全員が知ってしまったし、観客も同時に了解し
たのだった。

久世光彦演出の向田作品は、戦前、戦中の東京の中産階級の
文化に対するノスタルジーが色濃く表れていた。女優たちも
古い日本の女たちの情緒を漂わせていた。

ところが今度の松下奈緒は、長身であり、目鼻立ちの大きい
ことから、向田邦子ドラマ=久世光彦演出を予期した旧い視
聴者やまねこなどの期待の地平を大きく裏切った。都築実役
の原田泰三の表情も古い日本人顔の基準からは外れている。

『胡桃の部屋』は向田邦子が19818月、台湾取材中に飛行機
事故で亡くなる5か月前に書かれたという。1982年、1989年に
すでに二度もテレビドラマ化されている。その演出が久世光
彦であったかどうかを、やまねこは知らない。

けれどNHK「ドラマ10」の『胡桃の部屋』は、父のリスト
ラ、家族の崩壊という今日的主題で組み立てることで、久世
光彦型から脱して、向田邦子作品に別の角度から光を当てよ
とした試みだったと思う。

松下奈緒が演ずる桃子の役は、表情に乏しい生真面目な女性
で演技の難しい役だと思った。三田村忠(蟹江敬三)が、何
も語らずに転がり込んだ恩田節子(西田尚美)は、息子を置
いて家を飛び出した過去のある女性。おでん屋を営む一方、
化粧品を売る仕事をしている。

節子が、少ないセリフで忠を見つめる場面が印象に残った。
忠がうらぶれた初老の男であればあるほど、そのすがるよう
な眼の表情、忠と共にいることへの憧れ、忠と同居すること
「権利」を持たぬ者の、失うものをもたぬ、なりふりかま
ぬ無言の訴えの演技が、いたくやまねこの胸をうった。

「権利」を持たぬ方に、すがる思いの訴えがほとばしること
が、果たして『妻薔薇』にもあてはまるのだろうか?
この見どころをお楽しみに、どうか、お時間を割いてご参加
くださいますように。

うらおもて・やまねこでした。

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