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2012年1月20日金曜日

芥川賞受賞作家、円城塔氏、ポスドクについて語る


@@@@やまねこ通信179@@@@

NHKのモーニングショー「あさいち」にチャンネルを合わせる
と、芥川賞を受賞した円城 塔が出ていました。前日、ネットの
動画で、田中慎弥がうれしさとは正反対のふてくされた表情でイ
ンタヴューに応じたのを見た後。円城 塔は田中慎弥とは真逆の
丁寧な受け答えでした。

芥川賞直木賞は文藝春秋社のビジネス戦略。年に二度、賞を発表
してメディアの注目を集め、本誌の発行部数を増やし、文春が「
文壇」の推進エンジンであることを誇示するために仕組まれた年
中行事なのです。

けれど、新しいもの、流行ものには人並みの関心を示す、ミーハ
ーの一人として、やまねこも時折、受賞作を書店で立ち読みした
り買ったりします。

NHKの「あさいち」も受賞者を出演させインタビューを行いま
した。東大の日本文学教授、キャンベル先生が、円城の作風を解
説しました。とても分かりやすい解説でした。

円城塔は仕事は喫茶店でするといいます。2時間ごとに店を変え
るとのこと。周辺に人がいることが必要。家にいたら眠ってしま
うというのです。

今回の受賞作はまだどれも読んでいません。けれど、円城塔のイ
ンタビューをテレビで見るうちに気づいたことがあります。

円城塔は、物理学者でした。東北大を卒業後、東大院で博士を取
得しました。

受験シーズンを控えた一般社会の偏差値宗教の序列の視線で見る
ならば、円城塔の受賞は、物理学の出来の良い秀才が、あふれん
ばかりの才能で、文学賞までものした所業と見えるかもしれませ
ん。また、この見方が当たっている一面がないわけではありませ
ん。

けれど実際は、そう目出度いとばかりは言えない話であることが
分かってきました。円城塔氏は、小説を書き出した動機を、物理
学者として食い詰めたからと語りました。正直な発言です。

そうかそうか、「ポスドク問題」なのでした。ドクターを取得し
たはいいが、オーバードクターが多すぎて、大学や研究機関の就
職にありつけない。

たまに口があっても、期限付きであり、雇用条件さえ示されず、
全国どこに移ることにするかの選択ができない。だから結婚など
も難しくなる。

ネット検索するうち、円城塔が、日本物理学会の学会誌に書いた
「ポスドクとポストポスドク」というエッセイが見つかりました。
2008年、文学界新人賞を受賞した後の日付です。物理学者の間で
は、すでに知られた事であったのでしょう。

円城塔のエッセイは、怒りや恨みの表現というより、むしろ、自
身の置かれた状況をリアルに観察するうち、とんでもない不条理
の世界にはまり込んだことに気づいた者だけがものするであろう、
屈折した諧謔に満ちたフィクションなのです。

研究職をあきらめて、一般企業に就職したことを告げた時、
母は言いました。

「お前が研究者をやめてくれて心底からほっとした」

「母親もそんな言葉で大卒初任給ほどの待遇で居場所を探してき
た息子の転身を心から喜んでくれ, なるほどこれからは親孝行を
せねばなるまいと恥じ入る次第である. これまでに大変に苦労を
かけた」。

次は引用者の文章です。
「エッセイは「三十四の春」まで研究生活を送っていた円城さん
が、民間会社に就職したところからはじまります。「任期三年か
ら五年、よくて更新一回程度という、人を完全に馬鹿にした」雇
用形態の不安定さや、「事前に知れることがほとんどない」うえ
に「計画の立てようがない」突然の削減もありうる給与待遇の実
態、若い研究者が精神的に追い込まれ、「静かに狂っていく」様
子などに言及しています」。

原文はPDFファイルです。ワードに転換できないかと思いまし
たが、ソフトが必要の模様。全文を読みたい方は、次をクリック
してください。

http://ci.nii.ac.jp/els/110006825822.pdf?id=ART0008763734&type=pdf&lang=jp&host=cinii&order_no=&ppv_type=0&lang_sw=&no=1327044043&cp=

20代後半から30代の後半まで、不安定な契約で臨時採用される他
ないオーバードクターたち。年に200万円、300万円の年収で宙づ
りに置かれる研究者たち。この20年、文科省の行った、大学院の
拡大と、その後の無職のオーバードクター大量発生という教育政
策の貧困の生んだ結果がここに描かれています。当事者である円
城塔氏のエッセイは屈折した諧謔とともに政策の不条理とその破
綻を人々に訴えています。

やまねこは45歳ではじめて大学の専任職に採用されました。それ
以前は、不安定な非常勤講師を幾つも掛けもちしていました。

系は非常勤講師、けれど理系は期限付きの助教。そのどちらも、
今では修身雇用が以前にもまして厳しくなっています。


うらおもて・やまねこでした。

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