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2012年6月21日木曜日

魚津の魚はカラーフィルム


@@@@やまねこ通信204@@@@

前回、富山の魚屋さんの話を書いた。
魚屋の前を通りかかると、どんな種類の魚屋であるか「に
おい」でかぎ分けられるとやまねこは思っている。

店のガラスケースの中に、ごく少数の商品しか並んでいな
い。良く見ると、おそろしく新鮮な魚なのに価格は一向に
高くない。お得意さんが何を買うのかの目当てを付けて市
場から仕入れするのだ。あっという間に売り切れ、店内は
ほとんど空っぽで、そこに魚屋があることすら多くの人に
は分からない、知る人ぞ知る魚屋である。
これが1種目の魚屋である。

かつて、杉並区西荻窪に住んでいたころ、住宅街にこの種
の魚屋があり、引っ越す直前にその店を発見して、やまね
こは大いに悔しい思いをした。1960年代中ごろ、やま
ねこ22歳のころである。

町を歩いてこの種の魚屋を見つけると、店の前で奥の魚を
じっと眺め、尊敬の眼差しを投げかけて通りすぎるのがや
まねこの習慣である。この種の店があっても、近所でなか
ったら、買おうにも鮮魚ばかりは買うことが出来ない。

2種目の魚屋は、1種目ほどに簡素ではない。加工品も手
掛けて多数の客を集めている。けれど、基本的には鮮魚を
売るように努力している。

まな板、包丁の水洗いが丁寧で、一つの注文を捌くたび、
大量の水で、大型まな板を水洗い流し、次の注文にかかる。
夕方の店じまいの前には、飛び散った鱗、床に流れた魚の
血やはらわたの千切れたものを、丁寧にたわしで洗い流し
早めに店じまいを済ませる。この種の店の前を通っても、
焼き魚をしている折でもなければにおいはしない。

3種目の魚屋は、商店街を歩いてゆくと、10メートル2
0メートル向こうからでも、「あ、魚屋がある」と独特の
「におい」の看板を挙げている店である。


魚屋が漂わせる「におい」の正体は、たんぱく質や脂肪の
酸化したにおいである。魚を食べるのが好きな人でも、こ
の「におい」を好む人はほとんどいないだろう。


生魚の鱗、表面や内臓の粘液、血液、身の脂肪などを空気
中に放置すると、酸化してこのにおいになる。酸化する前
に、水で洗い流すといい。刻々の、水洗いを怠ると、店の
いたるところにこのにおいがしみついてしまう。

「におい」の看板を掲げたこの種の店は加工品中心である。
というより、仕入れが吟味されていないから、鮮魚が売れ
残る。売れ残った鮮魚を、焼いたりフライにして、店にな
らべることを店主は意に介さない。要するにおかず屋さん
である。

おかずやさんをわるく言うのではない。加工品が販売され
るので、勤労者は女であれ、男であれ、夕食準備の手間が
省けて大いに助かる。

けれど、魚の鮮度に無頓着なこの種類の魚屋で鮮魚を買う
際には、注意が必要である。日付をあまり信用しないほう
がいい。むしろ、魚の背中の光り具合、赤い身が灰色にな
っていないか、鮮度を見極めて買うか買わないか決めたら
よろしい。

全国の多くのスーパーの魚売り場は、残念ながら、この種
類の店であるとやまねこは考えていた。

ところが、この10年で着々、スーパーの鮮魚売り場の差別
が進んだ。塩物と一緒に並べることを潔しとせず、刺身
り場に今日の特売りを並べる店が、諏訪地域でも増えた。

刺身は高級品の印象がある。けれど、地域の平均購買層か
らかけ離れた高級品は売れ残る。新鮮なうちに刺身をどう
やって売ったらいいのだろう。

ダイヤモンドは、永遠の輝きを誇る。ところが刺身の鮮度
の寿命は短い。

やまねこの地域のAコープ(農協)ぴあみどりは、5,6
年前、鮮魚売り場をバージョンアップした。

新規開店直後、神奈川県三浦半島のカサゴやさざえが新鮮
な姿で並んでいるのを見て、やまねこは腰を抜かした。

この店では、刺身売り場は夕方に、2割引き、半値、10
0円などの黄色のシールをトレーに張りつけ、その日の完
売を煽る。上手な売り方だと思う。

6時半ころに職場を退勤することの多かったやまねこは、
この安売りの恩恵に浴することが多かった。目の前で半値
のシールが貼られた魚をゲットした瞬間には、快感を味わ
ったものである。

けれど、最近では、夕方の安売り刺身に満足できなくなっ
た。退職後、昼間の時間の自由が利くようになり、日本海
の鮮魚を買う機会が増したためである。

諏訪市に角上という新潟寺泊経由の魚市場があることは前
にもお伝えした。諏訪岡谷方面の所要から戻るのが夕刻に
かかる折には、欠かさず角上に立ち寄って、魚を買って帰
る。

ここで買った魚は、すけとう鱈、まいわし、まがれい、黒
かれい、まこがれい、かます、さざえ、岩がき、つぶ貝、
さより、さば、あまえび、ほうぼう、かながしら、いさき、
はちめ、はたはた、みぎす(にぎす)、ぎょろぎょろ(げ
んげ)・・・

つい大買いをしてしまう。けれど、魚は思いのほか、保存
がきく。薄塩、酢漬け、煮物、焼き物にして3、4日持た
ることは難しくない。

角上で魚を買うことが、諏訪での食生活の楽しみだった、
と過去形で書いておこう。つい最近、魚津を訪問するまで
は。

魚津の海辺の市場に並んだにぎすの透き通った虹色の背中
は、初めてカラーフィルムを見たほどに、衝撃的だった。
5月中旬のことである。


あれ以来、角上に並べられた新潟産の魚は、ノクロ写真
のようにぼやけてしまった。鮮度の差が、カラーとモノク
ロほどにも違うことに、やまねこは気づいてしまった。

でもここだけの話にしておこうね。
角上の魚に満足している友人、知人も多いのだから。
つい最近までのやまねこがそうだったように。
人々の楽しみをくさすことが目的ではないのだから。



うらおもて・やまねこでした。



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