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2015年3月1日日曜日

やまねこ通信311号:ピケティの格差論におもねり安倍政権看板塗り替え!

@@@やまねこ通信311号@@@
ピケティの格差論におもねり安倍政権看板塗り替え


「アベノミクスは、トリクルダウンと語られることが多い
ですが、実は、全体的底上げなんですよ!」
安倍首相の発言をテレビで見て、びっくり仰天、座布団か
ら転げ落ちそうになってからひと月近くが流れた。

トリクルダウンとは何か?
シャンペンのグラスをいくつも並べてさらに2段3段と幾
段もピラミッド状に積み上げる。頂上のグラスにシャンペ
ンを少しづつ注ぐ。グラスが満杯になってもそのまま注ぎ
続けると、こぼれた液体は下のグラスに流れ込みそのグラ
スを満たすとさらに下の階層のグラスに流れ込み、やがて
最下層にいたるまですべてのグラスがシャンペンで満たさ
れる。

このように液体は上から下に流れるよ、地球に重力がある
限り。このことを示す実例としてトリクルダウンは分かり
やすい眺めである。

ところが物理学実験の実例のはずのトリクルダウンが、経
済学の世界に流用されている。
へえ、どんなことだろう。

経済学では、シャンペンは富をあらわす。ピラミッド頂点
のグラス、すなわち富裕層になみなみ富が注がれれば、そ
れはより下にあるグラス、すなわち中下層の階層に「滴り
落ち」(トリクル・ダウン)、やがて、ずっと下の底辺に
あるグラス、すなわち最下層の人々にまで富が行き渡るだ
ろうとの仮説である。

経済学が物理学と同一の原理に立っているのであれば、こ
んなことがあっても不思議ではない。
ところが、英国の近代経済学者ケインズは、「経済学は人
間学である」と語り、日銀の黒田総裁も「経済は生き物で
ある」と常々語っている。

そのとおり。トリクルダウンは起こるはずがない。一見そ
れと似通った現象が一時的に生じても。経済学の世界では、
信ぴょう性のあやうい仮説なのだ。

非現実的であるばかりではない。トリクルダウンという語
の生むイメージは、富裕層、上層部がたらふく食い散らし
た残りかすに、下層の者たちが飛びついて貪り食うとのイ
メージだ。

ミュージカル『オリバー!』の原作、英国のC・ディケンズ
原作『オリヴァー・ツイスト』を思い出す。教会の運営する
孤児院、奉公先の待遇など19世紀英国の最下層の子どもた
ちの暮らしぶりが丹念に描かれる。

主人一家が食事を済ませたあとに、皿に残ったその食べ残し
を、奉公人である腹ペコの子どもたちが貪り食うのだ。時に
は主人の飼い犬の食い残しだ。これがトリクルダウンである。

下層の者たちは、腹を空かせ恨めしげな視線を上に向け、少
しでも早めに自分のお皿に落ちてこないかと、さもしい気持
ちをつのらせ、ワンちゃんさながら、「お待ち」をする。時
には仲間のお皿に落ちた肉をかっさらう。弱肉強食がつきも
の。このイメージがトリクルダウンという語に染み付いてい
る。

安倍首相の経済政策がトリクルダウンであったことで、普及
したこの言葉。
これを聞くたび、『オリヴァー』を思い出し、やまねこは、
いたく不愉快に思った。

子ども時代からピラミッドの頂点にいて、自分の食べ残しを
誰かが片付けることを当然と思う暮らししか知らない者たち
ばかりが政権をになっているのだろうか?

貧困者を馬鹿にするな!

●このような意味を抱えたお寒い言葉「トリクルダウン」。
ところが「アベノミクスは、トリクルダウンと語られること
が多いですが、実は、全体的底上げなんですよ!」
看板のペンキが、ある日、とつぜん、塗り替えられた。

安倍首相は「行き過ぎた富の再配分は活力を奪う」が持論。
ところが2月12日の施政方針演説で、未来の「格差の再生
産」に配慮し「誰にでもチャンスある社会」を強調。「子ど
もの貧困」、家庭の事情で学校に行けなかった子どもたちの
「多様な学び」などの言葉が並べられた。

けれどどこを見ても「女性の貧困」ばかりは見つからない。
ペンキの塗り残しがありあり!

看板を慌ただしく塗り替える深夜のドタバタ騒ぎの必要に、
安倍政権が迫られたのはなぜか?
それがフランスの経済学者トマ・ピケティの格差問題の波及
効果である。

●フランスの経済学者トマ・ピケティの来日中は、連日連夜、
ピケティの紹介やインタビュー番組がテレビで流れた。
新聞も特集を組んだ。

クローズアップ現代の国谷さんはピケティの主張のポイント
を突いて理解を高める良い番組だった。古舘伊知郎の報道ス
テーションでのインタビューは、日本人ジャーナリストがイ
スラム国の人質となった事件の中だったので、放映が遅れた
が、ピケティ氏が安倍政権の政策をどう見るかを訊ねる古舘
キャスターの質問が冴えていた。消費税引き上げ批判、それ
に企業税を引き上げたらいいとの考えだった。

大賛成!テレビを見ながら、やまねこの仲間たちは拍手喝采、
溜飲を下げた。

どのメディアも、局の、キャスターの価値観をサポートする
つっかい棒としてピケティ氏を援用したい欲望が見え見えで
あった。当たり前といえば当たり前だが。

けれどあまりにもこの欲望が露骨なため、苦笑を誘ったのは、
日本テレビの「ニュースゼロ」であった。ピケティの名をキ
ャスターが語ると同時に、黄色い文字が画面に広がった。

「ピケティ教授は、
資本主義がベストの選択だと考えています。
市場経済を肯定しています」。

この慌ただしいコメントから透けて見えるのは、ピケティを
マルクスと同一視して、<共産主義革命>を呼びかけている
との、「恐怖心」を抱く人々、あるいは、もしかすると「期
待」する人々が存在することであろう。

格差が拡大した社会は、今後、「自壊する。でなかったら共
産主義革命が起こる」。

トマ・ピケティが今日、このような発言をして人々の耳目を
集めていると受け止める人が少なくないと見える。
「左翼」の方々からも同様の声が聞かれる。

「自壊する。でなかったら共産主義革命が起こる」とは、マ
ルクスの言葉である。

ピケティの書いた本は『資本論』ではなく、『21世紀の資本
(論)』である。みすず書房刊行の同書が13万部を重ねている。
7000円弱の本である。

次回は、やまねこの棲家での「ピケティ入門読書会」について
お伝えします。



うらおもて・やまねこでした。

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